こちらでは、院長が地域交流誌『月間つくし』で執筆中の
文章より抜粋したものを掲載しています。
【脳卒中にならないために.1】
【脳卒中にならないために.2】
【痴呆症にならないために】
【めまいについて】
【珍しい頭痛について】
【交通事故について】
【女性と脳神経外科】
【バレリュー症候群】
【脳梗塞にならない方法】
【クモ膜下出血の予防】
【脳内出血にならないために】
【珍しい頭痛について】
脳神経外科の待合室は朝から晩まで頭痛の患者さんでいっぱいです。院長の私は二日酔い以外の頭痛を経験したことがないので、時に患者さんがどんな頭痛を訴えているのかさっぱり分からないことがあります。こういう時はMRI(磁気共鳴断層撮影)が解決してくれます。
〈トローサハント症候群〉
MRIが撮れるようになってから正確に診断できるようになった頭痛のひとつです。患者さんは目の奥がズグズグ痛くて充血し、物が二重に見え、瞼が垂れ下がっていると訴えます。MRIでは眼窩後部に炎症性の肉芽が見え眼静脈と動眼神経を圧迫しています。ステロイドが著効しますが、セデスは効きません。
〈カウザルギー(外傷性頸部症候群)〉
むち打ち症などの怪我の後、後頭部や顔、ひどい時には肩や手まで激痛やビリビリ感、むくみが出現し日常生活に支障を来します。MRIで頚椎を診ると後縦靭帯が剥離し、浮腫状になって脊髄神経を圧迫しています。神経栄養血管の自律神経障害によるもので、心身症の薬や星状神経節ブロックで根気よく治していきます。
〈群発頭痛〉
片頭痛の激症型で何日間も何回も断続的に起こります。目汁、鼻汁おまけに目が充血し人前に出られない位の大変可哀想な頭痛です。発作時のMRI血管撮影(MRA)では頭痛側の脳の血管が乱流のため狭窄様に映ります。
〈サンダークラップ〉
突発する激しい頭痛で、誰もがクモ膜下出血だろうと考えます。検査してもクモ膜下出血は存在せず、原因の分からない良性の頭痛をこう呼んでいます。さらに精密検査をすると小脳の梗塞や椎骨動脈解離性動脈瘤が潜んでいることもあります。翌日に頭痛が治っていれば心配ありません。
〈三叉神経痛〉
顔の片側に激痛が出現し、食事や歯磨きをすることで痛みが増強される大変に迷惑な神経痛です。MRAでは脳血管が三叉神経を圧迫しているのが確認でき、神経血管減圧術をすれば治ってしまいます。
〈片頭痛(血管性頭痛)〉
脳神経外科の外来で一番多い頭痛は片頭痛です。ひとみの奥を覗くと脳の血管の一部である網膜動脈が見えます。片頭痛の人はこの血管が脈打つように大きくドクドクと拍動して隣に沿って走っている三叉神経をグイグイと押さえつけて頭痛が起こっています。発作時にMRA(脳血管撮影)をすると内頚動脈と脳底動脈からなるウイリス輪が拍動による乱流のため狭窄状に描出されます。小児の頭痛も殆どがこれにあたりますが、バッファリンの効きにくい頭痛のひとつです。
〈大後頭三叉神経痛〉
成人の後頭部痛の殆どは頚椎の変形による神経痛です。軽いうちは肩凝りや頸部痛、重症になると歩行障害や手足のシビレ感を伴ってきます。頚椎をMRIで診ると少なからず椎体の棘や椎間板のヘルニアを認め脊髄を圧迫しています。軽症のうちに治療できれば治ってしまいます。腰痛と同様に人が立って歩き出したための副産物です。
〈緊張性頭痛〉
ストレス真っ盛りの働き盛りに多い頭痛です。頭や首の検査をしても異常は見あたらず、こめかみや後頸部の締めつけたようなこわばりが特徴的です。心身症の薬が著効しますが、セデスはあまり効きません。休日は消えていることもあり、職場を変えることで治ることもあります。
〈慢性副鼻腔炎〉
目の奥やこめかみに痛みが限局して起こります。蓄膿症があって微熱がある時の頭痛がこれにあたります。抗生物質の効く唯一の頭痛です。
【交通事故について】
脳神経外科を受診される交通事故の患者さんは年々増加しています。便利な車社会になりスピード狂の若い人からノロノロ運転のお年寄りまで多くの人が車を有効に利用していますが、狭い日本の道路事情はどうしても副産物としての交通事故を引き起こします。頭部の症状は交通事故の直後から明らかなものが殆どですが、ときに1年以上も遅れて出現することがあります。車に轢かれて起こる事故とむち打ち症などの車に乗っていて受ける外傷の二つに大別されます。車に轢かれて起こる外傷についてお話しましょう。
〈頭部外傷・脳震盪・脳挫傷〉
歩行中や自転車に乗っていて車に轢かれるとバンパーで下半身が弾き飛ばされ宙に舞ってフロントガラスで頭部を強打します。たいていの人が目の前にフロントガラスがきて、おでこをぶつけて“これまでか”と思ったとこまで覚えており、その後の記憶を喪失します。救急車に乗るところで意識が早く戻ると軽症の脳震盪です。重症の場合は後頭部などを強打して脳に挫傷が起こっており当分意識が戻りません。実際には漢字の字面ように下敷きになって楽しく車に轢かれてしまうような事はありません。
〈慢性硬膜下血腫〉
軽微な交通事故で頭痛が10日程度、長引いた方に起こる脳表の外側の出血です。頭部外傷の中でも手術をすれば最も劇的に善くなる病気です。事故の後、1年以上も後で診断されることがあります。脳の表面に少しずつ血液が溜まることで症状が出現しますが、手術で頭痛や麻痺は治ります。
〈急性硬膜下血腫〉
中等度の外傷で起こり、側頭部のタンコブの真下に骨折があります。事故直後は頭痛だけで頭を抱えながら自宅に帰れますが、1-2時間後に昏睡状態で救急車で運ばれてくる事もあります。骨折部からの出血が初期の小さい間は意識が清明ですが、次第に大きくなって急激に昏睡になるのが特徴です。緊急手術が間に合えば完全に快復出来る外傷ですが、診断が遅れて亡くなることもあります。
*交通事故の被害者は頭痛や腰痛のため、毎日のように病院に通いながら、なかなか元の体に戻らないのでイライラされています。また、交通事故の後遺症で悩んでいる方の大半はむち打ち症の患者さんです 。重症のむち打ち症の患者さんは、治りにくくて医者も患者もお互いにつらい思いをします。どんなに安全運転に徹していても後からぶつかって来られたら避けようがありません 。不思議なのは、むち打ち症に逢う患者さんの多くは2度、3度と多数回の交通事故の被害者になっていることです。恐らく信号待ちの止まり方が特殊なのか、追突されやすい魔力(魅力?)もあるのでしょう。
〈外傷性頚部症候群(むち打ち症)〉
首を急に捻られると筋肉や椎間板、末梢神経などの柔らかい組織の引きちぎられた所に出血が起こり頸部痛が出現します 。車にヘッドレストが標準装備された1970年頃から重症のむち打ち症は激減しましたが、斜めや横から追突されたら効き目がありません 。頸部痛や頭痛以外にも、めまいや耳鳴り、両手のシビレ感や時として狭心症まがいの胸痛 、倒れ発作などの症状もあります。症状は事故の直後から明らかなものが殆どですが、ときに1年以上も遅れて出現し胸痛などのため救急車で運ばれる事もあります 。
〈外傷性胸郭出口症候群〉
なで肩の肥満女性に多い症状で事故の後から手が挙げられず、胸の前側が痛み、指が冷たくて急に汗があふれ出るといった症状です 。前屈み姿勢の悪循環のため治りにくくなりますが、上半身の ス ト レ ッ チ運動や筋力増強運動が有効です 。星状神経節 フ ゙ ロ ッ クが著効することもあります。
*交通事故には被害者と加害者が存在します。病院に通院されるのは被害者で、加害者は滅多に受診されません 。加害者は事故直前に身構えることが出来ますが、不意の出来事で受け身も出来ずに症状が出やすいのは被害者の方です 。被害者は床に就いていても頭痛や腰痛で枕が合わず寝相が悪くなり 、イライラして不眠症になったりします 。心療内科の治療が必要になる方もたくさん居られます 。
〈枕の不一致〉
交通事故の患者さんは頭痛のために、枕が合わないことを相談をされます。慢性のむち打ち症の患者さんは頚椎の変形を伴っており、色々な枕のコレクションをお持ちですが、滅多に理想の枕は見つかりません。変形した頚椎が脊髄を圧迫して頭痛になっていますが、後頭部の緊張や、うっ血のため、慢性になるとこわばりが痛みに変わります。むち打ち症の方は、枕よりも自分の首に責任があることが多く、枕に頼るよりも自分の首の変形や寝相を治すことが先決です。首の変形はストレッチ運動を中心とした首周りの筋肉トレーニングで改善できます。首のトレーニングが完成すれば、どんな枕でも合うようになり、寝相も改善し、理想の枕を探す必要もなくなります。
〈自動車賠償責任保険(自賠責)〉
強制加入の保険である自賠責は加害者にとって手厚く有利に出来ていますが、被害者の治療には限界や期限もあります。被害者は治療に難渋する以外にも、職に戻れずに家庭が崩壊したり、次第に自分の身を守ってくれるヒトがいない孤独の不安に駆られます 。この点、加害者は一般に障害が軽微で病院を受診する必要もなく、事故の処理も自賠責の代理店が肩代わりして面倒をみてくれるため何の心配も要りません 。現在、これに替わる被害者を守るものとしては任意の傷害保険、或いは弁護士などですが 、一般には利用しにくいため、被害者を守ってくれる制度の新設が望まれるところです。
【女性と脳神経外科】
脳神経外科の外来は女性がいつも過半数を占めています。何故だかおわかりでしょうか?今回は女性に多い疾患についてです。
〈変形性頚椎症(脊柱管狭窄症)〉
しつこい頭痛、肩凝りの女性の頚椎をレントゲン検査すると骨が貧弱で年とともに変形が強くなっているのが解ります。MRIで診ると脊髄と骨がくっ付きあって押しくら饅頭しています。脊髄の中の血管も押さえ付けられながら、やっとこさ流れていますが、脊髄は血流障害のためムクんでしまってビリビリとシビレが出現しています。心身症の薬と星状神経節ブロックで何とか軽くなりますが、首の筋肉の強化運動をすれば更に良くなっていきます。腰痛と同様に、首の弱い人類が立って歩き出し、日常の姿勢が悪いことによる疾患です。
〈クモ膜下出血〉
40才以降の女性に多い疾患ですが、頭痛持ちさんばかりとも限りません。生まれて初めての頭痛がクモ膜下出血のこともあります。当院の脳ドックでは3%に脳動脈瘤が見つかっており、クモ膜下出血は自分で予防する時代になってきました。
〈更年期障害〉
頭の火照り、フラフラ感、頭痛などのある中年女性は、脳がおかしくなったと思って受診されます。脳の検査をしてもあまり異常は見られませんが、女性ホルモンは極端に低値になっており骨粗鬆症や高コレステロール血症も見つかります。更年期障害の人は女性ホルモンの貼り薬で見違えるように良くなります。
〈不妊症とプロラクチノーマ〉
女性の不妊症のうち妊娠もしていないのにオッパイが張ってミルクが出ている人がいます。ダイナミックMRIで脳下垂体をみると米粒大のプロラクチン産生腫瘍が見つかります。ブロモクリプチンを服用して腫瘍を小さくすれば妊娠が可能に成ります。
脳神経外科の外来は女性(ホルモン?)との日々これ戦いです。女性を征すれば脳神経外科は意外と簡単なのかも知れません。
【バレリュー症候群】
頚部椎間板ヘルニア、変形性頚椎症、胸郭出口症候群などに強度の自律神経障害を伴
う状態をバレーリュー症候群と呼んでいます。悪性のものではありませんが、頚部に
ある自律神経節(星状神経節)の異常興奮などが原因でパニック障害を来すこともあ
ります。病気への理解と頚部リハビリテーションを積極的に行い発作時の対処を覚え
れば、症状は改善できると思われます。
頚部リハビリテーションは頚部の過屈曲、過伸展時のズレを補強する体操です。いわ
ゆる前屈み姿勢で頚部が弱くなってフラフラが生じており頚部の強化運動をして予防
するわけです。一般のリハビリテーション施設では行われていませんのでお近くでし
たら当院の木曜夕診を受診してみてください。
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