58才の男性です。3週間前より5分程度続く視力低下が1日に2〜3回あります。特に左手に力を入れたり持ち上げたりした時に起こり、めまい感も同時に出現します。
鎖骨下動脈盗血症候群の症状と思われます。専門的な治療を要しますので病院を受診して下さい。
左手を挙上したり、力仕事をした際などに脳への血流が低下し一時的に脳貧血を来す病気を鎖骨下動脈盗血症候群といいます。下図のように左鎖骨下動脈が動脈硬化などで詰まる事が原因になります。心臓から拍出された血液は頸動脈および椎骨動脈の4本の血管を介して酸素や糖を脳へ運んでいます。これらの血管は脳内で複雑なバイパス網を形成して連結されていますが、一カ所が詰まると奇妙な症状が出現します。片側の血管が閉塞してしまうと反対側の血管の血流が増加し血圧が上がり、閉塞している側の血管へ吸いあげられることにより盗血現象が起こることがあります。鎖骨下動脈盗血症候群は左手を動かした際に他の部位の症状が誘発される病気ですが、椎骨動脈の血流が左の上肢に吸い取られ、脳底動脈、後大脳動脈が貧血状態を呈することで、視力障害、めまい、脱力発作が出現します。
鎖骨下動脈の閉塞の原因は動脈硬化に因る事が殆どですが、本邦に特有の脈無し病(高安病)によるものも報告されています。病変は左側で、年齢は40〜60才台に多く、治療は外科的に血行再建術あるいは血管内手術が行われ良好な結果を得ています。動脈の狭窄は急に起こるものではなく高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙などのある方に病変が徐々に進行します。このような危険因子をお持ちの方は頸動脈エコーや脳血管撮影などによる動脈硬化の診断と予防治療をお勧めします。
【
戻る
】
片頭痛持ちの32才の主婦です。娘も母も家中が片頭痛で悩んでいますが、何か良い治療法はありませんか?
予防治療と対症療法を適切に組み合わせると片頭痛を治すことが出来ますので頭痛外来を受診して下さい。
片頭痛を起こしやすい因子には遺伝子と環境の二つがあります。遺伝子は環境や内的な素因に対する様々の感受性に関与しており、多数の頭痛遺伝子が存在します。片頭痛の環境素因には外的なものと内的な因子の2つのタイプがあり、内的因子としてはホルモン、ストレス、睡眠習慣の変化があります。外的因子としては天候の変化、食物、飲酒、光の刺激などの関与があります。片頭痛の発生機序は下図のように、多くの因子によリCSD(Cortical Spreading Depression)と呼ばれる脳内の電気的活性の異常が誘発されます。CSDは大脳皮質においてニューロンとグリアの活性化が細胞外にイオンと神経伝達物質を放出しながら、ゆつくり拡散していく現象ですが、これにより動脈の血流が著しく上昇し、その状態が約1時間持続します。増加した血流は三叉神経の関与により次第に低下しますが、その結果、活性化された三叉神経血管系により、神経ペプチドの放出、髄膜血管の拡張、疼痛を促進して頭痛が起こります。従って週1回以上の頭痛発作がある患者さんでは、このCSDを抑制する予防治療が大切になります。また頓服薬は発作の頻度に関係なく必要で、鎮痛剤による非特異的治療およびトリブタンまたはエルゴタミンによる専用の治療があります。同一血縁内に起こる頭痛には家族性片麻痺性片頭痛や脳底動脈型片頭痛など、脳の障害を起こす特殊な疾患も存在しますので注意が必要です。頭痛外来では受診する患者さん一人一人に合った適切な治療法を選択しますが、予防治療を中心に頓服薬が処方されます。
【
戻る
】
27歳のOLです。先の地震でマンションが壊れて以来、体がいつも揺れている感じ、不眠や胸のドキドキが続いています。どうしたら良いでしょうか?
PTSDに相当しますが、軽症の場合は適切な治療で良くなりますので専門医を受診して下さい。
地震などの心的な外傷後に出現する心の障害を外傷後ストレス障害post traumatic stress disorder(PTSD)と呼び、心臓ではなく脳内に病変が存在することが分かっています。MRIやPET、脳血流量などの検査から病変は、下図のように前頭前野ことに内側前頭前野の機能不全であることが示唆され適切な治療により改善することが知られています。
PTSDとは、心的外傷体験として身の安全が脅威に晒され、著しい精神的衝撃を受けるような出来事が起こった後、特徴的な精神症状を生じることを言います。心的外傷としては災害、事故、犯罪、性的暴力、虐待、拉致監禁、戦闘などです。他人の被害を目撃したり、知人が被害を受けたことを聞いたりすることでも起こります。
PTSDの症状は再体験、回避/麻痺、過覚醒の3つの症状群から構成されます。再体験とは、外傷的出来事の光景が繰り返し蘇るフラッシュバックや悪夢などで、回避症状とは、出来事に関わる思考・感情や会話を忌諱したり、出来事を想起させる事物や場所を避けることです。麻痺症状とは、興味や関心の喪失、自然な感情の鈍麻、他人との疎隔感などで、過覚醒症状とは不眠症、いらいら感や怒りの爆発、集中困難、過剰な警戒心などです。
PTSDの生涯有病率は5〜10%であり、まれな障害ではありませんが、深刻な外傷的出来事があってもPTSDとなるのは一部の人であり、大部分の方は時間経過とともに自然回復することが知られています。PTSDの病態を有害な記憶の消去の失敗と捉えるならば、記憶消去の中枢である内側前頭前野の障害が一次的原因となっている可能性があります。これを治療するために一部の抗うつ剤あるいは経頭蓋大脳磁気刺激法(TMS)などが有用と考えられ実用化されています。
【
戻る
】
24歳のOLです。3年前に交通事故でむち打ち症になりましたが、その後より毎日のように頭痛があり困っています。横にならないと治らないので会社では怠け病と言われています。頭痛を治す方法はありませんか?
低髄圧症候群の症状に似ていますので、精密検査をお勧めします。
低髄圧症候群とは、外傷などをきっかけに髄液量が減少し髄液圧の低下をきたす疾患です。髄液圧の低下・起立性頭痛・MRIによるびまん性硬膜肥厚造影を3徴候とします。
脳と脊髄は、硬膜・くも膜・軟膜の3層からなる髄膜に包まれています。髄膜の内側には無色透明な脳脊髄液があり、脳と脊髄は髄液に浮かんでいます。低髄圧症候群は髄液がどこからか漏れることで、髄液量が減少するために起こります。軽微な頭頚部及び脊柱外傷や何らかの負荷(ストレッチ、いきみ、咳など)により髄液の漏れが発生することが分かってきました。
急性期の症状は頑固な頭痛が主で、立位や座位で症状が悪化し横になると軽減するのが特徴です。慢性期になると嘔気、眩暈、だるさ、背中や首の痛み、記憶力・集中力の低下などの多彩な症状が出現します。
診断はMRI(下図)などで行ないます。びまん性硬膜肥厚と造影所見および脳幹部の平定化、小脳の下垂などの所見が特徴的です。 保存的治療としては臥床安静・水分摂取、観血的治療としては硬膜外腔へ持続性の生理食塩水やデキストラン注入が用いられています。またブラッドパッチという、漏出部に合わせて少量の自己血を硬膜外腔に注入する方法もあります。注入した血液が糊の役目を果たし、硬膜に開いてしまった穴をふさぐと、髄液の圧が高まり治療直後から劇的に症状が改善することになります。無効の場合は注入量の変更や、髄液漏部閉鎖術が追加されます。
低髄圧症候群のMRI(脳幹部の平定化、小脳の下垂、硬膜の造影所見を認める)
【
戻る
】
【
前のページへ
】 【
次のページへ
】
〒816-0802 福岡県春日市春日原北町3丁目63番地 陣の内脳神経外科クリニック
TEL:(092)582-3232 脳ドック専用:0120-08-3222 E-mail:
jnstj@jns.info