【脳卒中にならないために.1】
 日本人は年々、高齢化のために脳梗塞の患者さんが増加傾向にあります。脳神経外科はこれまでは脳卒中などの症状のある患者さんを治療するために一生懸命でしかも精一杯でした。ところが最近はMRI(磁気共鳴断層装置)を始め医療機器などの進歩により予防医学が発達し、症状の出る前の人を未然に治療する事が可能になってきたのです。脳卒中にならないための自己防衛手段がいくつか出来上がってきています。例えば、クモ膜下出血は脳ドックが普及すれば将来は撲滅できる可能性のある疾患とも考えられるようになってきたのです。

〈クモ膜下出血〉

脳動脈瘤により起こるクモ膜下出血は、破裂するまではほとんどが無症状です。すなわち、破裂すると先程までは元気にお喋りしていた人が、急に頭痛を訴えたかと思うと、昏睡状態になり死亡してしまうこともあるのです。40才以降の女性に多い疾患ですが、頭痛持ちさんばかりとも限りません。生まれて初めての頭痛がクモ膜下出血のこともあります。当院の脳ドックでは3%の方の脳動脈瘤がみつかっており、クモ膜下出血を起こさずに治療ができています。脳動脈瘤のある患者さん全員が破裂前に脳ドックのMRA(MRI血管撮影)により発見され治療ができればクモ膜下出血は撲滅できる事になります。

〈フレンチパラドックス〉

世界で一番の長寿国が日本であることはご存知ですね。誇らしいことですが、それでは2番目の国はどこでしょうか?実は以外にも日本より遙かにコレステロールの摂取量の多いフランスなのです。フランス人は肉料理を食べる際には必ず赤ワインを飲み、普段もお茶代わりに飲用しています。赤ワインの成分中のポリフェノールは悪玉コレステロールを失活させ動脈硬化を防止する作用があります。フランス人は油っこいグルメにも関わらず、赤ワインを飲むことにより世界でも一番、動脈硬化による病気の少ない人種なのです。日本人がもっと赤ワインを飲むようになると脳卒中や心筋梗塞が減り更に平均寿命が延びるのかも知れません。

〈脳梗塞〉

突発性の半身マヒや言語障害が脳梗塞の主な症状ですが、脳の中の大切な血管が詰まる事により起こります。脳梗塞になる原因は脳内や首の血管の異常、心臓の心房細動や不整脈などの異常に分類されます。MRI検査は症状の出る前兆の脳の変化(無症候性脳梗塞)を見つけるのが得意です。MRAは脳内の血管の異常を、カラードップラーは首の血管の異常を見つけるのが得意です。それぞれ軽症のうちに異常を見つけて治療が開始出来れば、脳梗塞は防げる事になります。

〈3Dカラードップラーエコー〉

首の内頚動脈は表層にあるため、体の中でも動脈硬化の様子を観察するのに一番便利な血管です。高血圧、高脂血症、糖尿病などがある方は、この血管がコレステロールに被われてプラークを形成し、硬く細くなっていきます。カラードップラーで検査するとプラークによる血液の乱流を観察でき、脳梗塞の原因となるかどうかが一目瞭然です。壊れやすいプラークは弾けて脳内に飛んでいき脳梗塞を作ることになります。プラークはLDL値を思いきって下げてあげると弾けないように安定させる事ができます。

〈MRA(MRI血管撮影)〉

脳の内部の血管はMRAが得意です。この検査では動脈硬化の血管は細くなり流れが淀んでいるのがわかります。将来、この部分が詰まって脳梗塞になる可能性を予測することができます。詰まりかかった血管が解れば薬物で治療ができます。




【脳卒中にならないために.2】
〈脳内出血〉

 脳の血管が破れて出血が起こると壊れた部分の脳の症状が出現します。血圧が高すぎたり、生まれつき破れやすい血管があると脳内に出血を起こすことになります。脳は他の臓器に比べて出血が起こりやすく、しかも出血すると麻痺や言語障害など致命的な後遺症が出現するのでやっかいです。高血圧などによる脳内出血は昭和の半ばまでは脳溢血と称して成人が倒れる病気の代表格で、脳卒中の大半を占めていました。最近は高血圧の患者さんは、殆ど治療をうけておられるため、脳内出血は激減してくれました。脳神経外科医もこのところ脳内出血の患者さんにお目にかかることがかなり少なくなってきています。高血圧が長年に亘り持続すると、脳内の卒中動脈が破れやすい動脈硬化の状態になります。脳内出血にならないための予防手段は主に血圧を正常化することです。

〈高血圧〉

昔は血圧を測ることが医者の主要な業務の事もありました。最近は市役所の片隅や家庭でも簡単に自分で血圧をはかることが可能です。高血圧は生まれつきのこともありますが、ストレス、塩分、LDLコレステロール等の影響による本態性高血圧が圧倒的に多いと言われています。血圧を下げる降圧剤の「一生の間、飲み続けなければならない」という迷信は次第に消えつつあります。新しい降圧剤は脳内出血や心筋梗塞などを防止する効果があり、永年服用するとお薬無しでも正常血圧に戻してくれる事もあります。降圧剤は脳卒中などにならない健康で長寿になれる薬なのです。 

〈運動療法〉

ヒトは元々、古代より野原を駆け、遊び回りながら狩猟などに生きるよう生まれ落ちています。子孫を増やし家族を養いながらの日常生活そのものが運動の延長でしたが、現代人は大人も子供もパソコンやテレビの前に座り続けて不自然な生活に慣れきっています。こうした生活上の不健康から自分を防御するには日常の運動が大切です。毎日欠かさず2、30分程の汗ばむ位の運動が出来れば、LDLコレステロールを2、30程度は下げることができます。更に高血圧も運動療法を行うことで、薬なしでも正常血圧になり一石二鳥です。日常生活の不健康から自分を防御するためにも日頃の運動を趣味にすることは脳卒中にならない秘訣といえますが、長続きさせることが大切です。 

〈食事療法〉

最近話題のDHAやタウリンは青魚に多く、ポリフェノールは赤ワインに多く含まれています。いずれもLDLコレステロールを失活させ脳卒中を防止する効果があります。クロレラやアルコールは摂りすぎると血液が固まりやすく、脳梗塞になることもあります。納豆は単独では脳卒中の予防効果もありますが、心房細動に使う薬、ワーファリンといっしょに摂ると、脳梗塞になりやすく大変に危険です。お肉は摂りすぎると総コレステロールが心配ですが、少なすぎると血管が破れやすくなってしまいます。牛乳は骨粗鬆症のために沢山摂りすぎると、今度は高コレステロール血症になります。青魚を適量と、少しのお肉と赤ワイン、少量の青野菜と適度の牛乳などが好ましいことになります。何事も適度に摂ることが脳卒中にならない秘訣です。またタバコはHDLコレステロールを減少させるので大変な悪役です。




【痴呆症にならないために】
 当院の脳ドックを受診される方は、脳卒中と痴呆になる可能性について質問されます。痴呆症は治療すれば治すことのできる脳血管痴呆と、現在のところ治療法が確立されていないアルツハイマー病に大別されています。これ以外にも生活環境と本人の問題からくる見せかけの痴呆症も存在します。この長寿の時代には痴呆症は大切な問題ですが、生活の工夫次第ではどちらも予防し、治療することが可能です。

〈痴呆症になりやすいヒト〉

人の脳には遊びの脳と仕事の脳があります。2つの脳のバランスが悪いと全体の脳の機能が落ちて痴呆になりやすいと思われます。例えば、若い頃から仕事一辺倒で、趣味やスポーツなどに無関心、非社交的で親しい友人のない人が60歳を過ぎて定年退職を迎えると十中八九は痴呆症になってしまいます。定年で仕事が無くなり、老後の目標を見つけられず、脳細胞を使わない廃用性の痴呆症になるのは目に見えています。楽しい趣味を持たないことは、痴呆症になることに等しいのです。

〈痴呆症になりにくいヒト〉

かくしゃくとした高齢者をみると、いつも用事を作って飛び回っておられます。肩書きは会社の相談役だったり、芸術家で絵を描いたり音楽を教えたりで、いつまでも引退されず現役のままです。いろんな事に興味を示して首を突っ込み、殆ど全部の脳を満遍なく使っておられます。若い人と同等以上の生活能力があり、余暇には旅行やカラオケ、ゴルフなど趣味も多彩です。こういう方は自分から病院を熱心に受診され、健康管理も万全で痴呆症は見当たりません。

〈痴呆症になってしまったら〉

重症の痴呆症は手の打ちようがありませんが、軽症の状態であればいくつか方法が残されています。肉体的障害(頭痛・腰痛・膝関節痛など)が少なからず出不精の原因になっていますので、運動療法などを中心に治してしまうことです。体の不都合が消えれば、気も晴れて頭の回転が良くなります。この後は生き甲斐を得られる趣味や運動などで多くの人と交流を深め一定の仕事を持ち、若い人たちや異性とも接触を得ることです。人は環境次第で良くも悪くもなる生き物なのです。 

〈脳血管性痴呆〉

脳梗塞が多発して起こる病気で重症の場合はビンスワンガー病とも呼ばれます。脳梗塞が記憶の中枢である前頭葉や側頭葉にたくさん起こると最近の事を記憶出来なくなります。例えば大東亜戦争のことは完璧に覚えているのに、平成天皇のことは全く記憶に入らない等といった状態です。同時に言語障害や歩行障害が出現するのが特徴ですが、軽症のうちに脳梗塞の治療を開始できれば、かなり良くなっていきます。大脳の細胞は140億個存在しますが、脳梗塞により2、3割が壊れてしまうと痴呆症の症状が出現します。脳梗塞の治療は再発の予防と生き残った脳細胞の活性化および脳細胞間のネットワーク作りです。病院では薬物療法と運動療法を中心にして治します。 

〈頸部内頚動脈プラークと心房細動〉

首の内頚動脈の動脈硬化によるプラークと心房細動は脳梗塞の原因として代表的な病態です。どちらも精密検査で確認できるため、患者さんが治療に熱心であれば治癒することも可能です。軽症のうちに治療しておけば、脳血管性痴呆も撲滅出来るかもしれません。 

〈動脈硬化の促進因子〉

動脈硬化や脳梗塞の促進因子は高血圧、高脂血症、糖尿病です。どれも有名な病態ですが、意外と疎かにしている方が多く、放置したままでいると必ずや痴呆症が出現します。人生を台無しにしてしまい、他人に迷惑をかけることにもなります。 

〈痴呆症のテスト〉

外来で5分程で簡単に出来る痴呆症テストがあります。30点満点で25点以下が痴呆症にあたり、痴呆症を早期発見できる有力なテストです。 

 未だ治療法が確立されていない病気は沢山ありますが、アルツハイマー病も有名で厄介な難病の一つです。どんなにインテリでも、どんなに健康に留意していても、ある日突然に物忘れが出現し除々に進行していきます。脳神経外科には物忘れを心配する方が大勢受診されますが、アルツハイマー病も結構たくさん見つかります。米国のFDAによると西暦2013年頃には痴呆症の治療薬が完成する予測が出ています。あと僅か15年位ですが、皆さんはそれまで惚けないでいられるでしょうか?

〈アルツハイマー病〉

この病気の名付け親は1900年初頭のドイツ人ですので、まだ90年足らずの歴史です。早い人では50歳代位から、“忘れっぽくて仕方がない”症状を自覚します。次第に場所や時間の概念が失われるため、ハンコや通帳、財布などのしまい場所を忘れ一日中探し回って、家中がてんやわんやの大騒ぎとなります。性格はあまり障害されず明るいままで、人に好かれるやさしいお年寄りですが、最近の記憶がほぼゼロとなり、連れ合いや自分のことまで解らない状態になってしまいます。大脳の記憶の神経細胞が異常に早い老化により消えていき、最期は廃人同様にまで様変わりします。脳をMRI で診ると大脳が全体的に萎縮して隙間だらけになり、顕微鏡で大脳を診ると側頭葉の海馬を中心に記憶神経の死骸が異常に沢山見つかります。今の所は治す術はありませんが、特効薬が15年後に完成する予定です。

〈加齢による痴呆症〉

20歳頃をピークに人の記憶力は低下していくものです。生まれたときの大脳の神経細胞は140億個ありますが、歳とともに減っていき、2〜3割減少すると明瞭な痴呆症が出ると思われます。半分の人が痴呆症になるのは80歳です。100歳の人の痴呆テストでは、95%が痴呆症にあたり、残り5%の人は超正常ということになります。 




【めまいについて】
 脳神経外科の外来には頭がフラフラしたり、めまいがしたりする患者さんが脳卒中などを心配して大勢やってこられます。最も多いフラフラは頭が原因でなく、首の椎間板ヘルニアによるものです。メニエル病も有名ですが滅多にはおられません。また、めまいは脳梗塞の前触れになることもあります。脳梗塞によるめまいの原因は3つに分類されますが、病因が分かれば治療でよくなります。

〈頸部椎間板ヘルニア〉

天井を向いて仰け反ったり、足元の物を取ろうとして前のめりになった際に一瞬グラグラっとします。耳鳴りや肩凝り、手のシビレもありますが、寝違いやむち打ち症を経験している方が殆どです。重症の時は意識をなくして救急車に乗ることもあります。傷んだ椎間板が飛び出して脊髄を圧迫し、運動神経や自律神経の障害があり瞬間的なフラフラ感を呈しています。MRI で頚椎を診ると小さな椎間板ヘルニアがみつかります。猫背で前屈みの姿勢の悪い方に多い症状ですが、年齢とともに進行することが多いので早めに治療をしなければなりません。首の強化トレーニングで症状は少しずつ良くなっていきます。

〈椎骨脳底動脈循環不全〉

体を動かした際に強いめまいと頭痛、吐き気があり急に胸が苦しくなったりしますが、横になっていれば1時間以内で良くなります。若い頃は高血圧の為に薬を服用していたが最近、めまいやフラフラ感がして血圧が低くなってきたという状態です。脳幹部に小さな脳血栓が見つかり、MRA(血管撮影)で椎骨動脈に動脈硬化がみつかります。血圧を調節する青班核や視床下部の機能障害のため、降圧剤を中止して昇圧剤に変更すると治る人もいます。

〈メニエル病〉

天井が突然グルグルと回りだしてゲーゲー吐き続け、耳鳴り、難聴もあるのが特徴です。とんでもないひどいめまいのために、このまま死んでしまうのではないかと思う患者さんもおられます。安静と点滴で2、3日で良くなります。さすがのMRIもメニエル病には無力で聴神経、小脳などに異常を見つけることはできません。3日もたてば治るのが特徴ですが、1週間以上もめまいが続く時は他の疾患の可能性があります。心の痛手は残りますが、良性のめまいです。

〈頸部内頚動脈プラーク〉

のど仏には左右に大きな2本の頸動脈が走っています。これは脳の血管の源流ですので最も大切な、いわば脳の生命線です。この血管の内膜にはコレステロールの固まりがつきやすく、エコーで診るとプラーク(コレステロールの固まり)となっているのが確認できます。プラークの小さな破片は血液と一緒に飛んでいって脳の血管に詰まり突然、フラフラっとする脳梗塞の発作を起こします。コレステロール値を思い切って下げてあげるとプラークは小さくなって発作は起こらなくなります。糖尿病や高血圧の患者さんはプラークが出来やすいので注意が必要です。

〈心房細動〉

心臓の色々な不整脈の中でもめまいと関係の一番深いのが心房細動です。心房細動のある心臓の内側の壁には、血液がかさぶた状にくっついており、これが破片となって脳に飛んでいくことがあります。破片が小さな場合は軽いめまいが起こりますが、大きな固まりの時は強いめまいと麻痺が同時に起こり意識をなくすこともあり、重症の場合は昏睡状態になって脳死状態にもなります。心房細動は脳梗塞を起こさないよう治療の必要な不整脈です。

〈慢性脳循環不全症〉

 脳の血管が動脈硬化により細くなって血液の流れが悪くなると歩行時にフラフラ感やめまいが起こります。MRIによる脳血管撮影で診ると中大脳動脈や、内頚動脈の流れの悪い場所が見つかり、中には詰まっているところも見つかります。詰まりかかっている血管があれば麻痺が出たり消えたりすることもあります。脳血流改善剤を服用したり、血圧を少し上げてあげると良くなります。いわゆる脳の酸素不足が原因と思われる症状です。


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